大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1978号 判決

控訴人

九洲土建株式会社

右代表者清算人

梶原廣義

控訴人

梶原廣義

右両名訴訟代理人弁護士

三島駿一郎

被控訴人

ファインクレジット株式会社

(旧商号コニー株式会社)

右代表者代表取締役

有馬俊一郎

右訴訟代理人弁護士

荒木孝壬

福屋登

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張は、次に記載するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決の補正

原判決三枚目裏四行目の「前記内金」を「前記売買代金」に改め、同七行目の「前記立替払委託契約締結日に」の次に「被控訴人に対する控訴会社の右立替払金等債務について」を加え、同四枚目表二行目の「被告」を「被告会社」に、同七行目の「二〇五万一、七〇〇円」を「二〇五万一九〇〇円」に、同行の「被告ら」を「被告会社」にそれぞれ改め、同裏四行目の「被告」の次に「梶原」を加える。

2  控訴人らの主張

仮に本件売買契約及び立替払委託契約が有効に成立したとしても、右売買の目的物であるバルコニーは訴外会社から控訴会社に引き渡されていない。本件立替払委託契約は、実質上本件売買契約を前提とするものであり、被控訴人は右売買代金を訴外会社に立替払することにより手数料を受け、訴外会社と利益を享受しあう関係にあるから、被控訴人と訴外会社は経済的に一体をなす売主側の当事者と評価することができる。したがつて、訴外会社が売買の目的物の引渡を履行しないのに、これと提携して売主側に立つ被控訴人が、右売買代金の割賦払金と実質的に同視しうる本件立替金の支払を請求することは、信義則に反し許されないというべきである。

3  被控訴人の反論

控訴人らの右主張は争う。本件立替払委託契約は、被控訴人がその権限と責任において調査をし決裁をした上で控訴会社と締結したもので、訴外会社に契約締結権限があるわけではなく、立替金の弁済や手数料の支払も直接控訴会社から受ける関係にあり、訴外会社がこれを保証しているものではない。それは、いわば被控訴人が控訴会社のために金融をしたのと同様の関係であつて、形式的にも実質的にも被控訴人と訴外会社とが経済的に一体をなしているものではない。したがつて、本件売買契約に関するトラブルは売買当事者間で解決すべきであり、これを被控訴人に対して主張するのは、あたかも訴外会社の債務について被控訴人に保証を要求するに等しく失当である。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因(一)の事実は、控訴人らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

二甲第一号証のショッピングクレジット契約書には、控訴会社が昭和五四年六月二七日被控訴人の加盟販売店である訴外会社から商品を買い受けた一七〇万円の代金債務について、被控訴人にその立替払を委託し(その委託契約の内容は請求原因(二)の(1)ないし(3)記載のとおり)、かつ、控訴会社の代表者である控訴人梶原が控訴会社の右立替払委託契約に基づく債務について連帯保証をする旨の記載がある。そして、〈証拠〉によれば、昭和五四年六月ころ訴外会社の社員が控訴会社事務所にバルコニー類の売込みにきたことがあり、その際梶原は、一応見積りをさせてほしいとの同社員の申入れによりこれを許したこと、右甲第一号証の購入者欄に押捺されている控訴会社印及び代表者印は当時控訴会社において使用し保管していたゴム印及び印鑑によるものであり(控訴会社名下の印影が同会社の印鑑によるものであることは当事者間に争いがない。)、控訴会社の従業員がこれらの印を控訴会社代表者に無断で押捺することはまず考えられないものであること、また、甲第一号証の連帯保証人欄の記載は控訴人梶原が自書したものではなく、同控訴人名下に押捺されている印影も市販の認め印によるものであることが窺われるけれども、同控訴人の住所、電話番号及び家族関係に関する記載内容は事実に符合していることが認められ、これに反する証拠はない。これらの事実と弁論の全趣旨に徴すると、右〈証拠〉が控訴人らの意思に基づかないで作成されたものであるとする前掲梶原廣義の供述はたやすく信用することができないというべきであり、同号証は全部真正に成立したものと推認するのが相当である。

〈証拠〉に弁論の全趣旨を合わせると、請求原因(二)ないし(五)の各事実を認めるに十分であり、前掲梶原廣義の供述中右認定に反する部分は信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三そうすると、被控訴人は、控訴人らに対して、本件立替金及び手数料の合計二〇五万一九〇〇円並びにこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である昭和五四年一一月二日から支払ずみまで年二割九分二厘の割合による約定遅延損害金の支払を求める権利を取得したものというべきである。

四控訴人らは、本件売買契約の目的物であるバルコニーが訴外会社から控訴会社に引き渡されていないから、被控訴人が本件立替金を請求することは信義則に反すると主張する。

右購入商品であるバルコニーは、昭和五九年法律第四九号による改正後の割賦販売法にいう指定商品には含まれず、また、本件取引は右改正法の施行日前に行われたものであるから、割賦購入あつせんについて売買契約上の抗弁の対抗を認めた右改正法三〇条の四の規定が本件に適用されないことは明らかである。

いわゆるクレジット取引の場合、クレジット会社と加盟販売店との間に経済的な牽連関係があることは否定できず、購入者にとつては、売買代金をクレジット会社に分割払するのと実質的に異ならないともいえるが、販売店との間の売買契約とクレジット会社との間の立替払委託契約とは別個の契約である上、クレジット会社が販売店の売買契約の履行について当然にこれに関与し又はこれを具体的に監督しうる立場にあるものではなく、また、クレジット会社が立替払を実行する時点では右売買契約の履行が完全に行われるか否かを必ずしも的確に把握しうるわけでもないのであつて、クレジット会社側からすれば、実質的にみて、購入者が販売店から商品を購入するについて金融をしたにほかならないのであり、買主側においても、これを利用することによつて現金の一時払という負担を免れつつ比較的高額な商品を入手する利益を得ようとしているものである。これらの点を考えれば、法令若しくは契約に特別の定めがあるとき又はクレジット会社において売買契約が不履行となることを知り又は知りうべきでありながら立替払をしたなどの特別の事情があるときはともかく、そうでなければ、クレジット取引であるというだけで当然に売買契約履行上の抗弁を買主がクレジット会社に対して主張することができると解することは相当でないというべきである。

本件についてみるに、前掲〈証拠〉によれば、本件立替払委託契約においては、購入品の瑕疵、故障は控訴会社と訴外会社との間で処理し、それを理由に被控訴人に対する支払を拒絶しない旨の特約が付されているところ、被控訴人と訴外会社との間に先に述べた以上の密接な一体的関係があるものとは認められず、また、訴外会社の売買契約の不履行について被控訴人がこれを予見しえたなど右不履行の結果を被控訴人に帰責するのを信義則上相当とするような特別の事情が存在することを肯認するに足りる証拠もなく、加えて、前掲〈証拠〉によると、本件取引は控訴会社のために商行為となるものであつたことが窺われるのであり、このような事実関係の下では、仮に控訴人らの主張するとおり購入商品が控訴会社に引き渡されていないとしても、それだけで直ちに被控訴人の本件立替金等の請求を信義則に反するものということはできない。

五以上によれば、被控訴人の本件請求は正当として認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がない。

よつて、本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官村岡二郎 裁判官佐藤 繁 裁判官鈴木敏之)

《参考・原判決》

主文

被告らは、原告に対し、各自二〇五万一、九〇〇円及びこれに対する昭和五四年一一月二日から支払ずみに至るまで年二割九分二厘の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨

(一) 主文第一、二項と同旨

(二) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する被告両名の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二 当事者の主張

1 請求の原因

(一) 原告は、信用販売を業とする会社であり、旧商号をコニー株式会社と称していた。

(二) 原告(旧商号当時のコニー株式会社、以下同様)は、昭和五四年六月二七日、被告九洲土建株式会社(以下被告会社という)との間で左記内容の立替払委託契約を締結した。

(1) 被告会社と訴外ホンダ住器株式会社(以下訴外会社という。)との間に締結されたニューアルミバルコニー売買契約に基づき、被告会社が訴外会社に支払うべき売買代金一七〇万円を原告が被告会社のために代位弁済したときには原告は被告会社に対し同額の求償金のほか金三五万一、九〇〇円の手数料債権を取得する。

(2) 被告会社は、前項の合計金二〇五万一、九〇〇円について、次のとおり分割して原告の本店に持参または送金して支払う。

(イ) 昭和五四年八月二七日限り、金六万〇、四〇〇円

(ロ) 昭和五四年九月から同五七年七月まで毎月二七日限り金五万六、九〇〇円宛、合計三五回

(3) 被告会社が右割賦金の支払を怠り、原告から支払の催告を受けながら二〇日以内に支払をなさなかつたときは、被告会社は前項の期限の利益を失い直ちに未払残金に年二割九分二厘の割合による遅延損害金を付加して一時に支払う。

(三) このため、原告は、前記立替払委託契約締結日に、同契約に基づき訴外会社に対し前記内金を支払い、被告会社に対して合計金二〇五万一、九〇〇円の立替払金等債権を取得した。

(四) 被告梶原廣義は、前記立替払委託契約締結日に連帯保証を約した。

(五) 被告らは、原告に対し、第一回の支払月である昭和五四年八月二七日分より支払を怠つたので原告は昭和五四年一〇月一一日付書面により昭和五四年八、九月分の未払合計金一一万七、三〇〇円を支払うよう催告したところ、同書面は翌日、被告に到達した。

被告らの支払がなされないまま、右書面到達後二〇日間を経過したので、同年一一月一日の経過により前項の期限の利益を喪失した。

(六) よつて、原告は被告らに対し、前記立替払金等債権金二〇五万一、七〇〇円及びこれに対する被告らが期限の利益を喪失した日の翌日である昭和五四年一一月二日から支払済みまで年二割九分二厘の割合による約定遅延損害金の支払を求める。

2 請求の原因に対する認否

(一) 被告会社

(1) 請求原因(一)の事実は明らかに争わない。

(2) 請求原因(二)ないし(三)及び同(五)の事実は否認する。

(二) 被告

(1) 請求原因(一)の事実は明らかに争わない。

(2) 請求原因(二)ないし(五)の事実は否認する。

〈以下省略〉

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